論文「日本の温暖化対策数値目標引き上げに向けて-課題と対応策の検討-」2016年5月25日
日本のエネルギー・ミックスと温暖化対策数値目標を考える研究者グループ(Japan’s Union of the Concerned Scientists on Energy Mix and Climate Target:略称JUST)は、G7サミット日本開催に向けて日本のエネルギー・ミックスおよび温暖化政策に関する論文「日本の温暖化対策数値目標引き上げに向けて-課題と対応策の検討-」を発表しました。
要旨:
- 現在、国際社会が掲げる2℃/1.5℃目標の達成のためには、各国が約束草案の中のGHG排出数値目標を上方修正することが喫緊の課題となっている。
- 世界においてはコスト低下などによって再エネが大幅に導入され、省エネと共に雇用拡大や経済成長を推し進めている。一方、中国などの途上国においても化石燃料発電量は頭打ちになっており、原子力発電はコストが一段と増大している。
- しかし、日本の気候変動・エネルギー政策は、このような世界の動きに逆行している。省エネや再エネの導入量は不十分である一方、原子力発電の導入量は過大に見積もられている。先進国で石炭火力発電所の大幅な増設を計画しているのは日本のみである。
- 筆者らの計算によると、日本の約束草案が想定する電源構成と整合する電力業界が自主的に定める使用端におけるCO2排出原単位目標値 (0.37kgCO2/kWh)以下に抑えるためには、すべての稼働可能な日本の石炭火力発電所の設備利用率を平均56%以下にする必要がある。実際には 低効率の設備の運用を抑えるといった措置が期待されるものの、電力会社があえて採算性を無視して低い稼働率での運転や低効率の設備の早期稼働停止を自主的 に実施するとは想定しにくい。
- すなわち、現行の自主的枠組みとその実行性・透明性を促す政策的措置だけでは約束草案の目標達成すら不十分と考えられる。目標達成に向けた取り組みが進ま ない場合には、電力会社単位での排出原単位及び稼働率の目標の組み合わせや排出総量目標といった排出量そのものを規制する法的措置が検討される。
- 本稿で明らかにした省エネ、再エネ、原発などの導入ポテンシャルを参考にしながら、エネルギー温暖化政策が抜本的に再構築されることを要望する。同時に、 民間企業は世界的に化石燃料規制の強化や電力システムの自由化が進む中、政府の方針に関係なく、長期的な視点に基づいて経営計画や投資計画を策定すること が期待される。